伊澤総領事挨拶 (メールマガジン8月号)

令和3年10月22日

 モントリオールの夏も終わりつつありますが、皆様如何お過ごしでしょうか。

 私ことながら、今般、帰国の発令を受け、9月上旬に当地を離任することとなりました。2018年10月に着任してから3年、長いようであっという間の時間でした。この3年間、自分なりに日本とケベックの関係の強化に尽力してきたつもりですが、実現できたこと、できなかったこと、思いはつのります。

 最初の年はモントリオールと成田の直行便が就航し、その年の日ケベック間の往来は観光客を中心に2倍近くになりました。直行便により利便性が向上した結果、以前よりも容易に訪日できるようになり、ケベック市民による日本の「発見」が始まりました。しかし、2年目の途中からコロナ禍が始まり状況は一変、総領事館の活動の中心がコロナ情勢のフォローと邦人支援になりました。本年前半になって長期の活動制限とワクチン接種の拡大により、状況は落ち着き、総領事館も本来の活動に戻りつつあります。任期の半分をコロナ禍により活動を制約せざるを得なかったことは残念ですが、邦人の皆様の間で深刻な被害がでなかったことは本当に良かったと思います。

 3年間の勤務で印象に残ったことは多くありますが、3つ述べたいと思います。

 先ず、コロナ対策の効率性です。ケベックの医療制度は日本と大きく異なるために、最初はケベックの病院の「冷たい?」対応に驚きました。総領事館としては、関係の強化のために、ビジネスであれ、学問であれ、多くの日本人にケベックに来て頂きたいと考えていますが、こうした「冷たい」医療制度は足かせになるのではと懸念しました。ところが、コロナ対策においてケベックの医療制度は大きな成果を上げました。今日の日本のワクチン接種の状況を見ると、1日10万人以上がワクチン接種を効率的に受けられたケベックの医療制度はすごいと思います。人口800万人のケベックが毎日10万人以上のワクチン接種を実施できた「からくり」は、将来日本が医療制度を改革することになるのであれば、大いに参考になると思います。

 次に、ケベック市民の穏やかで暖かい人柄です。カナダの他の地域を知らないのでカナダ人全般がそうなのかもしれませんが、ケベック市民の人柄の良さ、温厚さは素晴らしいと思います。小官の個人的思いとしては、こうした国民レベルでの人柄の良さは日本人に通じるところがあると思います。そして多様性の尊重です。特に、ここモントリオールでは、人口300万の大都市であるにもかかわらず英仏二か国語制度が定着しています。外交官としてこれまで世界中様々な都市を訪問しましたが、これ程の大都市で、ここまでバイリンガルが現実化している場所はありません。ジュネーブもブリュッセルも比では無いと思います。その意味で、世界が多様性を志向していくのであれば(自分はそうあって欲しいと思うのですが)、モントリオールは一つのモデルとなることでしょう。

 そして何といっても、ケベック市民の対日関心の高さ、そして親日度です。以前は大半のケベック市民にとって日本は未知の場所でした。日本の伝統文化やポップカルチャーは人気がありますが、実際に日本を訪問して、日本を体験した人はそれほど多くはありませんでした。それが人々の往来の拡大に伴い状況が大きく変わり、日本は具体的なイメージをもって多くのケベック市民に愛されるようになりました。和食が広まっているのもその証左だと思います。小官自身も任期中どなたにお会いしても日本の代表としていつも暖かく迎えられました。総領事冥利に尽きると思います。政策面でも、少子高齢化、移民対策、伝統文化・アイデンティテイーの維持etc、ケベックと日本は同様な問題に直面しています。その意味でも日本とケベックの対話は今後ますます重要になるし、同時にむしろそのような対話を積極的に強化していかなければならないと考えています。

 この3年間、多くの皆様にご支援頂き無事に任期を終えることができました。これまでのご支援、ご厚情に深く感謝申し上げます。そして、小官の後任にも同様なご支援をよろしくお願い申し上げます。

 皆様、お元気でご活躍ください。

在モントリオール日本国総領事
伊澤 修